パーソナライズド・ニュートリションを実現するサービス開発を展望

京都大学大学院医学研究科社会疫学分野の佐藤豪竜研究員、株式会社東芝(本社:東京都港区、代表取締役 社長執行役員 CEO:島田太郎、以下「東芝」)および株式会社Wellmiraの3者は、2024年9月17日より、AI健康アプリを活用した、高血圧傾向の方に対する遺伝情報を踏まえた減塩指導の介入(*1)効果を検証する共同研究を開始します。

高血圧の主な要因として一般的に塩分の過剰摂取が知られていますが、実際は、食塩摂取量に対する血圧上昇反応性(食塩感受性)は特定の遺伝子で決まり(*2)個人差があります。今般、3者は食塩感受性遺伝子型(*3)を持つ高血圧傾向の方を特定し、対象者に食塩感受性遺伝子型を有することを告知した上で、Wellmiraが提供するAI健康アプリ「カロママ プラス」を通じて個別アドバイスを送り、対象者が食塩摂取量を減らす行動変容を起こすことができるかを検証します。

検証により高血圧傾向の方の行動変容を促す効果が確認できれば、今後、遺伝情報を踏まえた減塩指導プログラムをサービス化し、高血圧傾向の方に対して保健・栄養指導を行う現場で活用することが期待できます。また、3者は本研究を基に、遺伝情報を活用した個別化予防の普及や、個人に最適化した栄養素を提案・提供する「パーソナライズド・ニュートリション」を実現する様々なサービスや商品の開発・提案につなげ、健康寿命の延伸に貢献します。

共同研究の背景

高血圧症は日本人のおよそ3人に1人が罹患していると言われる国民病の1つであり、心疾患や脳卒中のリスク因子としても知られています。しかし、現在の一般的な治療は、高血圧症に限らず、遺伝情報を考慮せず一律に行われており、治療効果が得られないケースがあるだけではなく、高齢化社会において社会課題となっている医療費の増大につながっています。患者ごとの遺伝的背景を考慮し、より効果的な治療を実現することで、健康寿命の延伸および医療費の抑制につなげることができます。

高血圧症の改善において、食塩感受性遺伝子型を持つ方に対しては、食塩摂取量を減らすことで血圧を下げる効果が期待できますが、同じ遺伝子型を持たない方にはこの方法は効果がなく、薬の摂取や運動など他の方法が必要です。日本人の高血圧症患者において、食塩感受性高血圧と食塩非感受性高血圧の割合はほぼ半々であると言われており、より効果的な治療の実現には、患者ごとの遺伝子型を判定し、本人に告知した上で、遺伝子型に合った生活改善のアドバイスを行い、患者が適切な行動変容を実現することが重要です。

このような背景から、3者は、遺伝情報・健康診断データ・ライフログ情報などを総合的に活用して各個人の健康リスクに合った情報提供を行うことで、予防医療や健康寿命の延伸に貢献することを目指しています。

 

 今般3者は、食塩感受性遺伝子型を持つ高血圧傾向の方を対象に、食塩感受性遺伝子型を有することを本人に告知した上で、Wellmiraが提供するAI健康アプリ「カロママ プラス」を通じて個別アドバイスを行い、対象者の食塩摂取量を減らすことができるかを検証します。

研究テーマ

高血圧傾向の方に対する遺伝情報を活用したAI健康アプリの介入効果に関するランダム化比較

(*4)

介入期間

2024年9月17日~2024年12月16日

研究方法

ランダム化比較試験

調査方法と3者の役割

東芝は、同意が得られた従業員からゲノムデータおよび過去10年以上のヘルスデータ(健康診断、問診結果、レセプトデータ)を収集・蓄積した1.5万人を超える企業コホートを保有しています。今般3者は、企業コホート登録者のうち、本研究に同意した従業員(約300名を予定)を対象に調査を実施します。条件を変えて比較し、効果を検証するため、参加者を、介入群、対象群①、対象群②の3つに分けます。介入群に対しては食塩感受性遺伝子型を有することを告知した上で、Wellmiraが提供するAI健康アプリ「カロママ プラス」に食事内容を記録してもらい、AIによるアドバイスや、減塩や食塩感受性遺伝子型に関するコラムやクイズを配信します。対象群①・②に対しては遺伝情報の告知は行わず、対象群①は食事内容をアプリに記録しますが、アドバイスやコラムなどの配信はなく、対象群②はアプリを使用しません。3ヵ月間の調査で得られたデータや参加者の健康診断結果などの情報について、京都大学が研究機関としての医学的知見を生かし、解析・分析を行います。

(*1)介入:研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因の有無または程度を制御する行為。

(*2)Hunt et al., 1998; Norat et al., 2008

(*3)食塩感受性遺伝子型:食塩感受性(食塩摂取量に応じて血圧が変動しやすい体質)に影響を与える遺伝的多型。

(*4)ランダム化比較:研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、治療法などの効果を検証すること。

各機関・会社概要

京都大学大学院医学研究科社会疫学分野 佐藤豪竜研究員

経済学博士、公衆衛生学修士。専門は医療経済学、社会疫学。東京大学経済学部を卒業後、厚生労働省で主に社会保障政策の企画立案に携わる。慶應義塾大学総合政策学部専任講師を兼務。

株式会社東芝の精密医療分野について

東芝は企業コホートという形で、1.5万人超えのゲノムデータおよび過去10年以上の従業員の健康診断、問診結果およびレセプトデータを蓄積しています。また、産業分野で培ってきたビッグデータの解析技術を応用し、将来の生活習慣病の発症リスクを予測する「生活習慣病発症リスク予測AI」および発症リスクを下げる生活習慣改善ソリューションを提案する「生活習慣改善AI」を展開しています。