【筑波大学とWellmiraの共同研究結果】もともと歩行習慣がない人ほど健康アプリを用いた減量に成功しやすい
もともと歩行習慣がない人ほど健康アプリを用いた減量に成功しやすい
スマートフォンの健康アプリを利用して減量に取り組む人が増えています。本研究では、3ヵ月間の減量期間において、健康アプリで減量に成功する人の特徴を探索的に分析しました。その結果、減量開始時に歩行習慣がない人の方が減量に成功しやすいことが分かりました。
肥満は、2型糖尿病や心血管疾患など、非感染性疾患の主要なリスク要因であり、世界的な公衆衛生課題の一つです。肥満を解消するためのさまざまな対策が検討される中、近年、ウェブベースで提供される生活習慣改善指導による減量介入に注目が集まっています。中でも、スマートフォンの健康アプリを利用した食事や運動の介入は、減量に効果的な方法として人気があります。しかし、実際の減量効果には個人差があります。そこで、本研究では、健康アプリを利用して減量に成功する人の特徴を探索的に分析しました。
本研究では、過去に本研究グループが実施した、健康アプリの有効性を検証したランダム化比較試験において、アプリを利用した介入群に割り付けられた過体重または肥満成人68人を対象に、この試験で得られたデータの二次分析を行いました。初期体重の3%を減量できた人を減量成功者と定義し、減量開始時の特徴とアプリ利用状況との関連を分析した結果、減量開始時に歩行習慣がない人ほど、健康アプリを用いた減量に成功しやすいことが分かりました。これは、もともと歩行習慣がない人ほど、アプリから配信される歩くことを促す通知に反応し、運動量が増えたためであると考えられます。また、歩行速度が遅いことや、家族に既往歴があることも、減量成功に関連する可能性が示唆されました。
本研究結果は、今後の健康アプリの開発や改良に役立つと考えられます。
研究代表者
筑波大学体育系
中田 由夫 教授
SHI YUTONG(スポーツ医学学位プログラム博士課程3年)
株式会社Wellmira
佐々木 由樹 CPHO(Chief Public Health Officer)
研究の背景
肥満は、2型糖尿病、心血管疾患など、非感染性疾患の主要なリスク要因であり、世界的な公衆衛生課題の一つです。肥満を解消するためのさまざまな対策が検討される中、近年、ウェブベースで提供される生活習慣改善指導による減量介入(ウェブベース介入)に注目が集まっています。中でも、スマートフォンの健康アプリを利用した食事や運動の介入は、減量に効果的な方法として人気があり、公衆衛生的にも大きな意義があります。しかしながら、本研究グループが過去に実施した、健康アプリの有効性を検証したランダム化比較試験では、その有効性が認められた一方で、実際の減量効果には個人差があることも示されました。そこで、本研究では、このデータを用いて、健康アプリを利用して減量に成功する人の特徴を探索的に分析することを目的としました。
研究内容と成果
本研究では、先行研究のランダム化比較試験において、指定の健康アプリを利用した介入群に割り付けられた過体重または肥満成人68人(男性73.5%、平均年齢42.3歳)を対象とし、この先行研究で得られた体重変化や身体活動量などのデータを利用しました。参加者には、体重を測定するための体重計が提供されるとともに、身体活動量をモニタリングするための加速度計が貸与されました。また、自記式質問票ソフトウェアを用いて、参加者の基本的特徴(年齢、性別、身長、体重、運動習慣、歩行習慣、歩行速度、既往歴、服薬状況、家族歴、喫煙状況、職業、学歴、世帯収入、居住形態)が収集されました。
参加者は、スマートフォンのアプリ内に毎日の食事(朝食、昼食、夕食、間食)、運動、体重、気分、睡眠を記録しており、これらの入力回数を介入への遵守性の指標とみなしました。介入期間中、研究グループはデータの入力回数をモニタリングし、食事の入力が週4日に満たない場合は参加者にメールを送り、継続的な記録を促しました。ただし、このようなリマインドによる介入効果を避けるために、本研究の分析では、リマインドを行わなかった最初の1週間の入力回数を遵守性のデータとして利用しました。
その結果、初期体重の3%減量を達成した人を減量成功者と定義すると、3ヵ月の介入により、対象者68名のうち25名が減量に成功していました。減量開始時の特徴とアプリ利用状況との関連を分析したところ、単変量解析注1)では、歩行習慣の有無と歩行速度は減量成功と負の関連を示した一方、家族歴(脳卒中、心臓病、高血圧、脂質異常症、糖尿病)の保有は減量成功と正の関連を示しました。これらの変数を用いて多変量解析注2)を実施したところ、歩行習慣の有無のみが統計学的に有意な決定因子となり、減量開始時に歩行習慣がない人ほど減量に成功することが分かりました(表1)。このことは、もともと歩行習慣がない人ほど、アプリから配信される歩くことを促す通知に反応し、運動量が増えて減量につながった可能性が考えられます。さらに、統計学的有意水準には達しなかったものの、歩行速度が遅いことと、家族に既往歴がある(家族歴がある)ことも、減量成功に関連する可能性が示唆されました。
今後の展開
本研究結果より、減量開始時に歩行習慣がないことが減量成功に関連する有意な予測因子として同定され、歩行速度が遅いことと家族歴があることも減量成功に関連する可能性が示唆されました。健康アプリを使って減量に成功する人の特徴が明らかになったことは、今後の健康アプリの開発や改良、とりわけ健康アプリのパーソナライズ機能の向上に役立つと考えられます。このような機能を追加した際の有効性について、さらなる研究を進める予定です。
参考図
表1 3%以上の減量成功に対する多変量解析の結果
変数 | オッズ比 (95%信頼区間) | p値 |
---|---|---|
歩行習慣 | 0.248 (0.079, 0.786) | 0.018 |
歩行速度 | 0.324 (0.105, 1.004) | 0.051 |
家族歴 | 4.269 (0.972, 18.746) | 0.055 |
調整変数: 性別、年齢、減量体験、体重変動、運動習慣、既往歴、教育歴、年収、同居状況、婚姻状況、最初の1週間の各項目のアプリ入力回数
用語解説
注1)単変量解析
一つの要因(説明変数)から「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を説明・予測する統計手法。
注2)多変量解析
複数の要因(説明変数)から「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を説明・予測する統計手法。
研究資金
本研究は、株式会社リンクアンドコミュニケーション(現 株式会社Wellmira)との共同研究契約に基づいて実施されました。また本研究は、先行研究において、Wellmira社から無償で提供を受けた健康アプリ「カロママ プラス(有料版)」を用いた効果検証データの二次分析であり、日本医療研究開発機構(AMED)「予防・健康づくりサービスの平均効果と異質効果の推計デザインとその実装に関する研究」の支援を受けて実施されました(研究代表者:近藤尚己、助成番号JP23rea522107)。
掲載論文
【題 名】 Exploring determinants of successful weight loss with the use of a smartphone healthcare application: secondary analysis of a randomized clinical trial.
(スマートフォンヘルスケアアプリを利用した減量成功の決定要因の探索:ランダム化比較試験の二次分析)
【著者名】 Y. Shi, Y. Sasaki, K. Ishimura, S. Mizuno and Y. Nakata
【掲載誌】 Nutrients
【掲載日】 2024年7月2日
【DOI】 10.3390/nu16132108